TIFF TOKYO INTERNATIONAL FILM FESTIVAL 第25回東京国際映画祭 2012.10.20-28 www.tiff-jp.net

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2012/10/28

公式インタビュー コンペティション 『イエロー』

イエロー

ニック・カサヴェテス(監督/脚本)、ヘザー・ウォールクィスト(脚本/主演女優)(『イエロー』) イエロー
©2012 TIFF
   2009年に『私の中のあなた』のプロモーションで来日したニック・カサヴェテスにインタビューしたとき、彼は次回作についてこのように語っていた。「次に着手しようとしている作品は難しいので、もしかすると家を抵当に入れることになるかもしれない。いずれにしても私がやりたいのは型を破ることなんだ」。その新作『イエロー』では、重い過去を背負う臨時教師のメアリーが、様々な妄想の世界に逃避することで、厳しい現実との折り合いをつけようとする。  新作で予告どおりに型を破ってみせたニック監督と、共同脚本も手がけた主演のヘザー・ウォールクィストさんにお話を伺った。   ――3年前にインタビューさせていただいた時に、『イエロー』の企画はだいぶ具体的になっていたのでしょうか。   ニック・カサヴェテス監督(以下、ニック監督):当時はたぶん脚本を書いているところだったと思う。実際に私の家は抵当に入っているよ(笑)。新作で描きたかったのは、今日の女性が、そのタイプに関係なく、どういうことを考えているのかということだ。私はひとりの観客として、昨今の映画に描かれている女性像は、100パーセント本来の姿ではないと感じていたので、本当の女性の姿というものを描きたいと思った。 イエロー
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  ――ヘザーさんとの共同脚本ですが、どのようなプロセスで書かれたのでしょうか。   ニック監督:基本的には私がある状況を考え、ヘザーに女性だったらどう考え、どう行動すると思うかを聞きながら書いていった。ふたりで話し合いをして、できるだけ観客に道徳的な判断を押し付けないように心がけていた。観客が最初にするのは、彼女がとる行動になんらかの判断をすることだと思ったからだ。   ――おふたりは結婚されていたわけですが、共同生活によるコミュニケーションがこのような脚本を可能にしたようにも思えます。   ニック監督:撮影の途中で別居して、いまは夫婦ではないが、それでもこのようなプロセスは薦めたい。あまり近しくない人とではできないことなので。特にこの作品のように真実を追究するためには、パートナーというのは最適な相手だと思う。私たちは最初はこれが実際に映画になるとは思っていなかった。本当に自分たちの楽しみと愛で作ったものだ。ビジネスとは無縁だったし、なにかを恐れて作ったわけでもない。純粋にやりたいことをやったクリエイティブな作業だということをわかってほしい。   ――この映画はオクラホマが舞台で、ヒロインは実家に戻ります。ヘザーさん自身もオクラホマの出身ですよね。   ヘザー・ウォールクィスト(以下、ヘザー):自分たちが設定として書いていた場所で撮影できたのは偶然なのですが、実際に私が育った町での撮影はマジカルな体験でした。昔からあったお店が、自分が思っていたよりも小さかったことに気づいたりして、感傷的になることもありました。町の人たちがそこで映画が作られることを喜んでくれたし、貧しい町が少しでも潤うのでよかったと思っています。 イエロー   ――この映画はフィクションですが、ニック監督とヘザーさんそれぞれの家族への視点が融合して、リアルな世界になっているように思うのですが。   ニック監督:食事をするうちに家族がみんな動物になってしまう場面があるが、あれは私の家族だ(笑)。私の家族というのはみんな賢くて、タフで、お互いにものすごく愛し合っているが、何かを一緒にするかといえば、立ち上がれなくなるまで飲んで、思っていることを好き放題に語る。それは痛みをともなうこともあれば、洞察にあふれていることもあるが、いずれにしても真実にあふれていて、飾ることがない。あの場面のようにワイルドな動物たちのような家族なんだ。   ヘザー:私の母親も鳥の役であの場面に出ています! 私と彼の家族は基本的に女系で、彼にはふたり娘がいたところに、私と結婚してもうひとり娘が生まれて、私には妹がいて彼にもふたり妹がいる。男といえば彼と、あとは映画にも出ていた犬のランピーくらい(笑)。だから映画では強い女性のキャラクターに惹かれるのかもしれません。私の家族はみんなとても情熱的で、自分が思っていることをやたらに語りたがるけど、たいてい間違っている、そういう感じの人たちです。 イエロー
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  ――この映画では、現実とメアリーの妄想の世界との境界が曖昧にされていて、観客も現実からそれを見るのではなく、一緒に浮遊していくような面白さがあります。   ニック監督:たとえばメアリーが妄想の世界に入っていくときに、なにかサインを出したり、映像をモノクロにするという手法もあるが、それをすると観客にこれが現実でこれは妄想だと伝えてしまうことになる。メアリーというキャラクターは、現実と妄想の区別がついていないので、観客にも同じ体験をしてほしかった。その結果、混乱したり、後から頭を整理しなければならなくなることもあるかもしれないが、観客は十分に賢いと思う。それに、なにが起きているのかよくわからないからこそ、その世界により関心を持ち、より引き込まれるとも思うので、後から振り返って観客がそれぞれ、何が現実かを判断し、納得してくれればいいと思う。   ――メアリーと妹がレストランで大喧嘩をはじめて、それが車のなかでも続き、警官まで巻き込んでいく場面は、思わず笑ってしまいますが、あれは即興なのでしょうか。   ヘザー:あれは私と実の妹が本当にやったことです。それをまったく同じレストラン、駐車場、住宅街で撮影し、後からきた車がつかえたり、鍵やバッグが飛ぶところまで、その通りに再現したんです。きっとあのレストランの裏には私の顔写真が貼ってあって、出入禁止になっていたと思いますけど(笑)。 イエロー
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  ニックとヘザーのパートナーシップは、ジョン・カサヴェテスとジーナ・ローランズのそれを思い出させる。『イエロー』のスタイルはジョンの作品とはまったく違うが、その精神は間違いなく引き継がれている。ニックもまたジョンと同じように、家族的な信頼関係を基盤に嘘のない女性像や感情を描き出しているからだ。   聞き手:大場正明(映画評論家)   イエロー イエロー
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